非戦 監修:坂本 龍一 +sustainability of peace  幻冬舎 2002


"非戦"という本のなかに「100人の村」というエッセイがありました。
そのオリジナルは、米国のジャーナリスト、ダネラ・メドウズ氏のエッセイだそうです。彼女の文章には"少しでも世界の状況を変える可能性のある情報を人々に"という遺志を継ぎ、著作権を主張せず、機関名を併記すれば原則的に転載自由という内容がつけくわえられていました。
大変感銘を受けたエッセイで、1人でも多くの方に読んでいただきたいと思い自分のHPに加えさせていただきました。

GREENCRAFT 番 和 隆


村の状況報告


地球が1,000人の人の住む村だとすると、そこにはアジアの人が584人、アフリカの人が123人、東ヨーロッパと西ヨーロッパの人があわせて95人います。ラテンアメリカの人は84人、リトアニア・ラトビア・エストニアなどを含むソビエトの人が55人。北アフリカの人は52人。そして,オーストラリアとニュージーランドの人が6人います。
村の人達が気持ちを伝えあうのは、それはそれは大変です。なにしろ、1,000人のうちの165人は中国語を、86人は英語を、83人はヒンディー語かウルドゥ語を、64人がスペイン語を58人がロシア語を、37人がアラビア語を話すのですから。ここにあげたのは、村人の話す言葉の半分だけです。このほかにベンガル語・ポルトガル語・インドネシア語・日本語・ドイツ語・そしてその他200の言語があるのです。(後に出て来る言葉ほど,話す人の数は少なくなります。)
村には300人のキリスト教徒がいます。このうち、カトリックの教徒が183人,プロテスタントが84人,ロシア正教を信じる人は33人です。イスラム教徒は175人、ヒンズー教徒は、128人、仏教徒が55人。アミニズムを信じる人も47人います。残りの210人は、他の宗教を信じている人達で、宗教を信じない人もいます。
全体の1/3にあたる330人の村人は子供です。子供の半分は、はしかやポリオといった、防ごうと思えば感染を防ぐことの出来る病気にかかっています。1,000人の村人のうち65才以上の人は60人。結婚している女性の半数を少しかけるほどの人数の人が、現代的な避妊具を使えますし、実際に使っています。毎年28人の赤ちゃんが生まれます。死ぬ人の数は年間10人。このうち、3人は食糧不足で、1人はガンでなくなります。また、2人は生後1年にならない赤ちゃんです。村にはHIV感染者が1人います。まだ、AIDSを発症するところまではいっていないようです。28人生まれて10人死ぬのですから、来年の人口は1,018人になります。
1,000人の村では,200人の村人が収入の3/4を持っていってしまいます。また,全体のわずか2%のあたる収入を200人で分けている人達もいます。一方で全体の1/3の人には清潔で安全な飲み水さえ手に入りません。670人いる大人の半数は字が読めません。
村には1人あたり6エーカーの土地があります。全部で6,000エーカーある土地のうち、畑が700エーカーです。1,400エーカーは牧草地。1,900エーカーは森林です。砂漠・ツンドラ・歩道・その他の荒れた土地をあわせると、2,000エーカーになります。
森林は物凄い速さでなくなっていて、荒れ地は増えています。その他の土地は増えも減りもしていません。村では畑の40%に、肥料の83%を使っています。この土地は特別お金持ちが持っている土地で、ここで270人分の作物がとれます。多すぎた肥料は土地から流れだし、湖や井戸水を汚します。残りの畑には17%の肥料が撒かれ、収穫量の28%にあたる作物がとれます。これで村人の73%の食べ物がまかなわれるのです。貧しい人の畑の収穫量の平均は、豊かな人の畑の1/3です。
世界を1,000人の人が住む村だとすると、そこには5人の兵士と7人の先生、そして1人の医者がいます。村が1年間に使うお金は300万ドルを少し超えたくらいです。そのうちの18万1,000ドルは武器や戦争に使われます。教育に使われるのは15万9,000ドル、そして健康管理に使われるお金は13万2,000ドルです。
この村には、村全体を吹き飛ばし、塵が何層にも積もるほどの破壊力を持った核兵器が埋まっています。こうした武器はちょうど100人の人の管理下にあります。残りの900人の人は、あの100人はお互いうまくやっていけるようになるのだろうか、そうだとして、万が一不注意や処置を間違えて作動してしまうことはないのか、また、武器を解除すると決めたとしても、武器の原料の危ない放射性物質を村のどこに捨てるのだろうと、息を潜めてうかがっています。

(翻訳 佐光 紀子)

【出典】非戦 pp.127-131 より引用 監修:坂本 龍一+sustainability of peace (C) 幻冬舎 2002