Lesson1


感じる・追及する・理解する・表現、創作する


1、はじめに
2、主題設定の理由
3、研究の目標・研究の仮説
4、マルチメディアを利用した授業の実践
  ・学級歌創作の実践

[音楽授業]
[Lesson2]

1、はじめに ・もどる
 現代の中学生を取り巻く生活環境の中には、多種多様の情報が絶え間なく流れている。またマスコミの発達 によって、いつでもどこでも好みにあった情報に接することができ、われわれの世代にとってはうらやましいかぎりである。しかし、このことは逆に生徒の自主性を奪い、受動的で惰性に流れやすい生活習慣をつくる一因にもなっている。このような状況の中、生徒が自分に合った情報を彼らを取り巻く多くの情報の中から選択し、それを追究することのできる力を育てていく努力をしたい。
 音楽を聴くという行為を、その聴き方の形態から分類すると次の三つに分けられる。
 ・生の演奏会を聴く
これは単に音楽を聴くだけではなく、その演奏会場まで出かけるというかなり積極的な行為である。そこには演奏家から伝わる音楽だけではなく、会場や他の聴衆から伝わる様々な雰囲気も存在する。
 ・AV機器で聴く
 これはエジソンが蓄音機を発明してから可能になった音楽の聴き方で、長い音楽史から見るとごく最近になって行なわれるようになったことである。しかし現在ではこの方法がほとんど音楽を聴くことの代名詞のように扱われている。
 ・自ら演奏しながら聴く
 個人もしくはグループで自らの演奏を同時進行的に聴く行為である。実際に演奏会で演奏したり、練習したりする行為のことである。これは上記の行為と少し違い、ある程度の演奏技術を必要とする。
 これらは一つ一つが独立しているため、それぞれの形態に添って積極的に音楽を聴く力を育てる必要性があると考えられる。
 そこで「聴く力を育てる」という主題を設定した。

2、主題設定の理由 ・もどる
 学校教育における音楽には、表現と鑑賞の二大領域がある。それは、ともすると相反するもののように思われがちであるが、実際はお互いの力が微妙に影響し合う表裏一体のものである。一般に表現力を高めることは、演奏能力を高めることであり、音楽を聴く力を育てることは鑑賞力を高めることである。しかし、聴く力を育てる中に表現力を高める要素も十分に含まれていると考えられる。できるだけ一つの音や音楽に対してこだわりをもち、考え、感じ取ることが音楽の力を育てるために必要なのではないかと考えるのである。
 そこで、中学生の音楽に対する聴き方を今一度反省してみると、次の様な問題点が出てくる。
 ・音楽をバックグラウンドミュージック的に聴き、集中して聴く態度や習慣が身についていない。
 ・好む音楽は多様化してきているが、現代の音楽ジャンルの一部に集中している。深い知覚作用を必要とするようなジャンルの曲は避ける傾向がある。
 ・音楽を聴く習慣はあるが、それをさらに深く追求したり、自らの演奏に生かしたり、新しいものを創り出そうとする意欲に欠ける。
 ・鑑賞に対する積極的な学習が不十分で、受身的な態度が目立つ。
 以上のような問題点をふまえ、現在の中学生に必要とされる「積極的な音楽の聴き方」を育てるために目標を設定した。

3、研究の目標・研究の仮説 ・もどる
(1)生徒に求めるもの
 自分達の好むジャンルだけではなく、諸外国の伝統音楽に触れながら、学習指導要領の基本方針に見られるような「心豊かな人間の育成、文化と伝統の尊重と国際理解の推進」に見合うべく次のような観点の力を身に付けさせたいと考えた。
 ・音の高さ、音の長さ、拍子、リズムにこだわり音楽を聴き、歌う力。
 ・楽曲の構成や演奏の様子、その美しさを聴きとり自ら表情豊かに演奏できる力。
 ・旋律や拍子を想像力豊に自ら創作する力。
(2)研究の積み上げ
 上記の目標を達成するために昭和62年度より12年間にわたり次のような実践を行なった。
 ア、鑑賞・・楽曲の構成や演奏の様子、その美しさを聴きとる力。
 授業前より鑑賞曲を流し、入室と同時に静かにその音楽に耳を傾け、聴く態度の育成をはかってきた。しかし、単に聞き流すのではなく、鑑賞の観点にそって聴き、その感想をノートにメモしながらより深く聴く力をつけるように指導してきた。
 イ、聴音・・自分の聴いた音を楽譜にする力。
 鑑賞の後、簡単な聴音を行なってきた。聴音とは文字どおり「音」を「聴く」ことである。しかし、一般的に音楽教育の中での聴音はさらに聴き取った音を楽譜にすることまでを意味している。
 本研究では単に音を聴き取り楽譜を作ることが最終的な目的ではなく、音の高低による音程感、音の長さによるテンポ感などを養うこと、さらに自ら音符、休符を書くことによって、音楽の言葉である楽譜に少しでも慣れることを目的としてきた。自ら楽譜を作ることで、楽譜に対するコンプレックスを少しでも減らすことも重要な要素のひとつである。これは、やがて自分の音楽を創作するうえで大きな助けとなると思われる。
 このように、鑑賞と聴音を毎回の学習に取り入れることによって、より確かな自分の表現すべき音をつかませたいと考えた。
 これらの実践により次の成果が得られた。
 ア、自分もしくは自分たちの演奏だけでなく他人の演奏にもじっくりと耳を傾けるようになってきた。
 イ、楽譜に対して注意をむけ、音符の長さ、休符などにこだわるようになってきた。
 しかし次のような問題点が残された。
 毎回取り組む聴音や鑑賞教材と中心となる歌唱・器楽教材との関連性を明確に持たせてないため効果があがりにくい。
(3)これからの研究
  以上の反省点をふまえ本年度からは以下の仮説をもとに実践を試みている。
・共通の調性または拍子を持った鑑賞、聴音・ソルフェージュをひとつのサイクルとして学習することによって、歌唱・合唱・器楽・創作における、より確かな自分の表現すべき音をとらえることができるのではないか。
4、マルチメディアを利用した授業の実践 ・もどる
 表現、鑑賞、創作をバランスよくかつ効果的に学習するため毎時間、鑑賞、聴音、歌唱もしくは器楽演奏をひとつのセットとし学習してきた。そして、それぞれの分野でコンピュータを中心に視聴覚機器を効果的に活用できるよう実践を行なった。
(1)鑑賞
 従来はコンパクトディスクやレーザーディスクによる音声や演奏の様子を見ることにとどまっていたが、パソコンを使用し実際に演奏される楽譜を見せながら鑑賞することが可能になった。コンピュータが楽譜を追ってくれるので、楽譜を正確に読めない生徒でも楽譜を追いながら演奏を聴くことができ、演奏されている楽器の種類や数などを把握することができた。また、主題の変奏など視覚により確認することができた。
(2)聴音
 毎時間取り組む聴音課題は、基本的な記譜法を身に付けると共に、音符の長さ、休符などを正確に聞きとることを目標としている。コンピュータ室でこの課題をノートに書き取るのではなく、二人一組になりコンピュータに入力することを試みた。楽譜にかかれた音をソルフェージュするのが苦手な生徒も、コンピュータを使えば自分の入力した楽譜を音にできるので、より積極的に取り組むことができた。また、ほとんどの生徒がノートに書き取るよりも正確に聞き取ることができた。
(3)作曲の実践
 私の授業では創作の分野として学級歌に取り組んでいる。平成8年度より学級歌の制作にあたり、歌詞の作詞を除くすべての段階からコンピュータを利用した。
 創作では、曲のイメージを作ることと、それを音楽として構築し、楽譜として表現することの二つの能力が必要である。イメージを作るということはいわゆる「感性」の部分で、個人個人その思いや感じ方は異なっており、そこに個性というものが存在する。後者は感性というよりはむしろ知的活動の分野である。そこに楽典や和声学など、音楽を作るための約束事がいくつも含まれている。
 学校教育における創作の授業においても、この二つの要素は不可欠であり、互いにフィードバックを行いながら進めなければならない。しかし、実際はこのフィードバックのどこかでつまずいてしまい先へ進めなくなってしまうことが多い。そこで、コンピュータを使うことによってそのつまずきをできるだけ少なくすることが可能になると考え、学級歌の作成過程にコンピュータを導入した。その結果、コンピュータを使うことによって、自分たちの声域にあった調性を選ぶことがでた。また、他の作曲者の作った曲の気に入った部分を自分の作品とつなぎ合わせることも自由にできるので、何度も納得のいくまで、伴奏のリズムなどシミュレーションしながら楽しむ様子が見られた。
・計画

・学級歌創作の実践 ・もどる

イメージ 2
 左は2年2組の学級歌制作委員によって、完成された歌詞にメロディーがつけられたものである。2年生は学級歌制作において経験があるので、メロディーを作る段階では思ったよりも進度は早かった。
 また、はじめからコンピュータを使って音を入力しながら作っていったので、記譜上の問題点も、音域、調性なども違和感なく設定することができた。ただし、歌詞が先にできているために、メロディーの動きに限度があり、不自然な音の高低ができたり、アクセントの 関係から言葉がうまくつながらなかったりする問題点が多くみられた。これは自由な音楽表現を試みようとする観点からは非常な障害となるものである。したがって、メロディーを先に作ったほうがよいのではないかという意見が多くの学級の学級か制作委員から反省としてあがった。

構築 3
 左の楽譜はイメージ3の段階の曲に作曲委員が伴奏の音をつけたものである。
 この段階で学級歌として完成はしていないが、曲としてのイメージは出来上がっているので音取りなどの練習は取り組める状態になっている。和声学ではソプラノ課題になって難しいが、自分が演奏できなくてもコンピュータがシュミュレーションしてくれるので、自分の好きな音を選ぶことがでた。
 また、複数の作曲委員の創った曲の気に入った部分をつなぎ合わせることも自由にできるので、何度も自分たちの納得がいくまでシュミレーションしながら楽しむ様子が見られた。この段階で学級歌として完成はしていないが、曲としてのイメージは出来上がっているので音取りなどの練習は取り組める状態になっている。

イメージ 4
 メロディーにつけられた伴奏の和音をもとに、作曲委員によってピアノ伴奏のパートが作られた。
 従来、ピアノ伴奏のパートを制作するには、ある程度ピアノが弾ける技術が必要とされてきたが、ここでもコンピュータに演奏させることによって自由な伴奏を作ることができた。
 しかし、この段階で曲の構成がはっきりと決定されてしまうので、より多くの伴奏パターンを紹介し、何度もコンピュータでシュミュレーションさせながら、自分たちの求める曲想に近いものができるよう十分に時間をとる必要があると思われる。

構築 4
 曲の細部を完成するにあたって、まず始めに学級歌制作委員によって検討されたことが「男女のパート分け」であった。そのため、メロディーにも和音をつけることが必要とされた。楽譜では同声二部合唱の形をとっているが実際は混声2部で合唱することになり、さらにこの段階で歌詞にも多少の手が加えられた。
 13小節目○の部分で工夫の後が見られる。この段階にくると、いまのところコンピュータでは歌詞が歌えないので実際に歌唱しながら曲を細部まで検討する必要が生まれてくる。
 イメージを具体的に音にすることによってさらにイメージが広がるという具合に、コンピューターという道具を媒体として自分たちの作品を客観的に見て作業することがより簡単になった。しかも、このプロセスを順次記憶しておくことによって、生徒がいつどのように曲を作り変更していったかということが手に取るようにみえる。
5、今後の課題
 コンピュータを使うことによって、本来は習得に時間がかかる技術的な側面を補うことは十分にできたと考えられる。また、受け身的になりがちな鑑賞の授業でも自らコンピュータを操作することによって積極的に取り組む様子が見られた。しかし、コンピュータを操作する技術に追われてしまうと音楽を学習する本来の目標である「感性を育てる」という面がおろそかにならないよう十分な配慮が必要であると考えられる。
 また、作曲に取り組むプロセスをより深く研究し、より多くの生徒が自分のオリジナルの曲ができるようこの研究を続けていきたい。特に、創作の実践イメージ2で感じた「メロディーを先に作ったほうがよいのではないか」という問題につても比較研究してみたいと思う。 ・もどる