Lesson2


マルチメディアを利用した音楽授業


1、音楽の授業におけるマルチメディアとは
2、実践
(1) パソコンを使った聴音の授業
(2) CD・LDとパソコンを使った鑑賞の授業
(3) パソコンを使った学級歌の制作
(4) ネットワークを使った演奏と発表
3、反省と今後の課題

[音楽授業]
[Lesson1]


1、音楽の授業におけるマルチメディアとは ・もどる
 音楽の授業では、CD、VTR、LDなどの視聴覚機器を使う機会が多い。しかし、それらは映像や音の情報をパッケージ化されたアルバムとして取り扱っているに過ぎない。そのため、再利用・汎用性という点では充分に価値が生かされていない現実がある。これは、ややもすると受動的な授業としての活用になりがちである。しかし、パーソナルコンピュータ(PC)の急速な発展に伴い映像や音の情報をデジタル化することによって、それらを音楽の伝統的な保存方法である楽譜と同時に扱えることがわかった。デスクトップミュージック(DTM)と分類されるこれらのソフトは、楽譜を単なる記号から「音」そのものの情報としてさまざまな方法で活用することができる。
 このDTM・聴覚機器をマルチメディアとして活用することにより、さまざまな技術的障害を乗り越えた新しい音楽の授業ができるのではないかと考えた。
2、実践
(1) パソコンを使った聴音の授業
 ・もどる
 聴音とは、文字どおり「音」を「聴く」ことである。しかし、一般的に音楽教育の中での聴音は、さらに聴き取った音を楽譜にするまでを意味している。本実践では単に音を聴き取り、楽譜を作ることが最終的な目的ではなく、音の高低による音程感、音の長さによるテンポ感などを養うこと、さらに、自ら音符・休符を書くことにより、音楽の言葉である楽譜に少しでも慣れることを目的としてきた。自ら楽譜を作ることで、楽譜に対するコンプレックスを少しでも減らすことも重要な要素のひと つである。これは、やがて自分の音楽を創作するうえで大きな助けとなると思われる。
 平成9年度の2年生全学級(5学級171名)から3回の聴き取り結果をグラフ1にまとめた。課題3はコンピュータを使って聴音 を行ったものである。その課題の調性に慣れるにしたがって、少しずつではあるが確実に音が聞き取れるようになっている。
 また、コンピュータを使ったときは、記号や小節線などの記譜上の問題点は完全に解決できることがわかった。さらに、導音から長三度下降する音程や付点のリズムなど、やや複雑な聴き取りでも、生徒は自分の書き取った音をコンピュータでシミュレーションしながら聞き取ることができるので、実際にノートに書き取って練習するよりも飛躍的な効果があることがよくわかる。
(グラフ2)つまり、このように シミュレーションしながら聞き取ること自体が聴く力を育てる練習になっていることがわかった。
(2) CD・LDとパソコンを使った鑑賞の授業 ・もどる
 生徒は毎時間、音楽室へ入室する時から授業のはじめの10分程度を使って鑑賞する。これまではコンパクトディスクによる音声やレーザーディスクによる演奏の様子を見ることにとどまっていた。本実践ではさらにコンピュータを使用し、実際に演奏される楽譜を見ながら鑑賞する。このとき、感想を自由にノートに書く。また、そのつど鑑賞の観点を指示し感想を書く参考にさせる。教師は鑑賞教材が終了するごとにノートを点検し、観点に沿って聴くことができたか、曲をどのように味わうことができたかを把握し、個人的な助言を与える参考とする。
 ◎課題 J.S.バッハ作曲、小フーガ、ト短調
 ◎目標
 ・ト短調の響きを感じ取らせる。
 ・パイプオルガンについて、楽器のつくりや音色の変化を知る。
 ・作曲者について知る。
 ・フーガの構成について知る。
 ◎指導内容と生徒の反応
<感じる> コンパクトディスクを利用し、小フーガを初めて聴いた感想を、次の鑑賞の観点にそって書くように指示した。
 ・明るい曲か暗い曲か
 ・どんな楽器で演奏されているか。
 この段階でほとんどの生徒が短調であることに気づくことができた。ここで曲の題名にト短調とあることに気づく生徒も多かった。また、長調に転調していることに気がつく生徒もいることがわかった。楽器については、身近にパイプオルガンがないため、複数の楽器で演奏されていると感じる生徒がいることがわかった。このように、初めて聴く曲でも、鑑賞の観点をあらかじめ設定することで、文章表現の苦手な生徒も目標にそって聴きながら、自分の感想を書くことができることがわかった。
<追究する> レーザーディスクを利用し演奏の様子を見ながら、次の観点を加えて鑑賞させた。
 ・どうやって演奏しているか。
 ・パイプオルガンとはどんな形や大きさなのだろうか。
 鍵盤が複数の段になっていること、黒鍵と白鍵の配色がピアノと違うことに誰もが気づくことができた。また、足を使って演奏しているのに驚く生徒も多いことがわかった。このように、視覚的に鑑賞させることによって、音だけで鑑賞したときよりも、より積極的に聴こうとする姿勢がわかる。
<理解する> コンピュータを使い楽譜を見ながら、次の観点を加え鑑賞させた。

 ・いくつの声部からできているか。
 ・テーマは何回繰り返されるか。
 楽譜が演奏に合わせてスクロールされるので、ほとんどの生徒が4声のパートで構成されているのに気づくことができた。
 また、グラフ3よりフーガのテーマが何回繰り返されたかについては、楽譜を見ずに聴いたときとの差が歴然としていることがわかる。楽譜が全く読めない生徒にとってはこのようにコンピュータが画面上で楽譜を追ってくれることが、自分の感じたことをさらに追究しながら鑑賞するうえで、非常に大きな助けとなっていることがわかる。
 メディアを変え聴くことによって、同じ曲を何度聴いても、その都度新しい感想をまとめることができることがわかった。また、一般的に生徒は描写音楽や標題音楽については、かなり自由に感想を書くことができる。しかし、交響曲やフーガなど描写音楽や標題音楽以外でも、メディアを変え、聴くことによって、曲のイメージを文章にまとめやすくなることがわかった。
 さらに、パソコンを使い作曲や作品の時代背景などの情報をインターネットで検索して調べると、世界中の研究者による最新の情報が収集できるので、教科書などには書かれていない内容を知ることができた。
◎「岡崎五万石」鑑賞とアレンジの実践
◎目標
 ・郷土の音楽に親しむ。
 ・音楽のつくりや音色の変化を知る。
 ・アレンジに挑戦する。
◎指導内容と生徒の反応
<感じる>  CDを利用し、岡崎五万石を初めて聴いた感想を、次の鑑賞の観点にそって書くように指示した。
 ・明るい曲か暗い曲か
 ・どんな歌詞の内容だろうか。
 この段階でほとんどの生徒が、長調とか短調とかで表される西洋の音階ではないことに気づくことができた。また、聞いただけでは日本語であっても、昔の言葉であるため単語の意味がほとんどわからないことがわかった。さらに、掛け声のところは今ではほとんどこういう言葉を使わないので全く理解できないことがわかった。このように、郷土の音楽とはいっても、曲を聴くだけでは詞の内容を理解することは難しいことがわかった。
<理解する>
 DTMを使い楽譜を見ながら、次の観点を加え鑑賞させた。
 ・使ってない音があるのに気づくか。
 ・どんな歌詞の内容だろうか。
 楽譜が演奏に合わせてスクロールされるので、ほとんどの生徒が「ソ」の音が使われてないことに気づくことができた。また詞の内容も文字として認識できるためおおよその内容は把握できることができた。
<追究する・アレンジに挑戦>
 DTMを使いメロディーに伴奏を付ける。
 ・メロディーに合う音を伴奏に使おう。
 楽譜が書けなかったり読めない生徒でも、DTMを使い、キーボードやモニター上の音符、ツールを利用して楽譜を作ることができるので、楽譜として何らかの形にすることができる。その後、自分の作品をDTMで再生し、自分で聞いたり友達と聞き合いながら自分の作品として完成させることができた。楽譜1ではメロディーと五度の関係の低音部をつけ、「昔風の伴奏を工夫した。(S男)」とアレンジすることができた。
 ・伴奏を気に入ったリズムに変えよう。
 DTMを使い、自分の伴奏を気に入ったリズムにアレンジすることができた。DTMにはたくさんのリズムパターンが記憶してあるので、自分の気に入ったリズムを探し使うことができた。できた作品を何度も再生し、いくつかのバージョンを作る生徒もいた。楽譜2は3連符をつかい「水戸黄門風にした。(Y男)」と、楽譜をほとんど書くことができない生徒も自分の作品を完成することができた。また、DTMの音源を使い自分の作品を様々な音色で演奏し、音色の変化を楽しむ姿も見られた。
(3) パソコンを使った学級歌の制作 ・もどる
 コンピュータを使い創作曲をMIDIファイルに置き換え、その制作段階ごとに保存する。生徒は自分のイメージに従い楽譜として構築する。楽譜が書けない生徒もキーボードを弾けばコンピュータが楽譜として保存してくれる。
<メロディーの作成>
 コンピュータを使って音を入力しながら作っていったので、記譜上の問題点などは、障害なく楽譜を完成することができた。昨年度から、メロディーを先に作ることにしたため、リズムやメロディーの動きに制限がなくなり、不自然な音の高低などの問題点が解消された。

<歌詞の作成>
 完成したメロディーに全員がひとりひとり自分の詩を創作する。メロディーはすでにコンピュータに楽譜とMIDIファイルにデータとして入力されているので、パソコンでシミュレーションしながら歌詞を付けることができた。楽譜が読めなかったり演奏できない生徒でも何度もメロディーを聞き直すことができるので全員の生徒が歌詞を作ることができた。全員の歌詞ができたところで歌詞制作委員がひとつにまとめた。

<伴奏の作成>
 
 メロディーに伴奏の音をつけたものを作曲委員がひとつの曲にまとめた。この段階で学級歌として完成していないが、曲としてのイメージは出来上がっている。学級としては、合唱のための音取りなどの練習に取り組める状態になっている。和声学的には、ソプラノ課題になり難しいが、自分が演奏できなくても、コンピュータがシミュレーションしてくれるので、自分の好きな音を選ぶことができた。また、複数の作曲委員の作った曲の気に入った部分をつなぎ合わせることも自由にできるので、何度も納得がいくまでシミュレーションしながら楽しむ様子が見られた。


<曲の完成>

 メロディーにつけられた伴奏の和音をもとに、作曲委員によってピアノ伴奏のパートが付けられたものである。従来、ピアノ伴奏のパートを制作するには、ある程度ピアノが弾ける技術が必要とされてきたが、ここでもコンピュータに演奏させることによって自由な伴奏を作ることができた。しかし、この段階で曲の構成がほぼ決定されてしまうので、より多くの伴奏パターンを紹介し、何度もコンピュータでシミュレーションさせながら、自分たちの求める曲想に近いものができるよう十分に時間をとる必要があると思われる。また、こうしたシミュレーションを繰り返しているうちに、自然に歌詞やメロディーをおぼえることができ、改めて音取りの練習に時間を使わなくてもすんだ。しかし、コンピュータでは歌詞は歌うことができないので、実際に学級全体で歌唱しながら曲を細部まで検討する必要が生まれてくる。このことで、学級全体で学級歌を作っているという一体感を持つことができた。
 イメージを具体的に音にすることによってさらにイメージが広がるという具合に、コンピュータという道具を媒体として、自分たちの作品を客観的にみて作業することがより簡単になった。しかも、このプロセスを順次保存しておくことによって、生徒がいつどのように曲を作り変更していったかということが手に取るようにみえる。度もコンピュータでシミュレーションさせながら、自分たちの求める曲想に近いものができるよう十分に時間をとる必要があると思われる。また、こうしたシミュレーションを繰り返しているうちに、自然に歌詞やメロディーをおぼえることができ、改めて音取りの練習に時間を使わなくてもすんだ。しかし、コンピュータでは歌詞は歌うことができないので、実際に学級全体で歌唱しながら曲を細部まで検討する必要が生まれてくる。このことで、学級全体で学級歌を作っているという一体感を持つことができた。
 (4) ネットワークを使った演奏と発表 ・もどる
<情報のデジタル化とネットワーク化>
 情報社会はデジタルの時代を迎えている。アナログの持ついくつかの欠点(劣化する、再加工できない、マルチアクセスできない)をデジタルは見事に克服している。
 これまでの学校では、アナログ的に的に資料が蓄積されてきた。しかし、それはアルバムとしても保存であり、再利用・汎用性という点では充分に価値が生かされていない現実がある。したがってこれからの情報の蓄積は、デジタル化に努めるべきである。
 総合学習が取り上げられているように、教科の枠にとらわれない事象の認識はこれからの時代に必要とされている。ある事象に対して、その情報をいろいろな角度から捉えることは、それらを追究する過程において不可欠であると思われる。しかし、たとえパソコンを使ったとしても、従来のようなパッケージ型のデータベースやソフトだけをたよりに学習や実践をする時代は終りを告げようとしている。必要なときに必要な場所で必要な情報を手に入れることのできる環境、それが教育の場も必要とされているのではないかと思われる。
 これまでの音楽の授業では、音楽のもっとも基本的な情報のひとつである楽譜をデジタル化して扱うべく実践を試みてきた。しかし、コンピュータにデータとして入力された楽譜やMIDIファイルをパソコンやキーボードの音源に伴奏させて歌唱練習したり合唱・合奏させるだけでは、カラオケと同じで音楽的な表現活動としては何か物足りない感じがする。そこで、ネットワーク化されたパソコンを使い、楽譜だけではなく演奏情報をデジタル化して扱い、複数の場所、学級による合唱を実践した。
 これは、ピアノやキーボードなどをパソコンに接続しそれらの演奏情報をインターネットによって経由し、相手側のピアノやキーボードを演奏させるものである。同時に双方の様子は映像によっても確認することができる。
<インターネットによる生伴奏>

 インターネットを利用し演奏情報を伝達することによって、伴奏者が別のところにいてもその場にあるピアノ(パソコンとインターネットに接続してある)の伴奏により合唱することを試みた。
 1年4組の生徒が体育館で合唱し、伴奏者が2階の普通教室のピアノを演奏した。伴奏者は普通教室でインターネットから送られる音声をパソコンのスピーカーから聴くことができる。したがって、双方でテンポなどを合わせることは可能である。合唱する側はスピーカからでる音ではなく体育館にあるピアノの伴奏を聞いているので、そこに伴奏者がいるのと全く同じ状況で合唱することができた。また、パソコンを通し演奏情報をデジタル化しているため、合唱側ではパソコンの操作によって伴奏を好きな調に移調し合唱することができた。(ただしこの場合伴奏者にとっては自分の演奏しているのと違う調性で歌唱が聞こえてくる。)
<インターネットを使った複数の場所による合唱>
 伴奏者の演奏情報と同時に、別の場所で合唱している音声もインターネットを使い別の場所に送信し合唱することを試みた。
 1年4組の生徒が体育館で校歌の高音部を歌い、2年3組の生徒が2階の普通教室から低音部をピアノ伴奏つきで歌った。体育館では伴奏の演奏情報はインターネットを経由したパソコンからピアノに伝えられ、合唱された音声はスピーカーから伝えられる。生徒はそれぞれの場所にあるピアノ伴奏とスピーカーから聞こえる歌唱に合わせ合唱した。それぞれの場所で、それぞれの場所には存在しない合唱のパートがスピーカーを伝わって聞くことができた。したがって、その場で聞いている聴衆には、あたかも二部合唱しているかのように聞こえた。
 パソコンの画面には相手側の演奏の様子がほぼリアルタイム(パソコンやモデムの情報伝達容量、インターネットの混み具合によって違いがある)で写っているので、お互いに様子を確認することができた。
<テレビ会議システムによる交流授業>
 テレビ会議システム「フェニックス」を利用し、1年生と熊本県の鹿本中学校の2年生との交流授業をおこなった。  はじめに、学級歌をDTMの伴奏で合唱した。続いて岡崎市の文化を紹介し、DTMでアレンジした「岡崎五万石」を発表した。生徒は、初対面の上級生との交流に緊張気味であったが、相手校の反応が即座に伝わってくることもあり、しだいに和やかな雰囲気の中で授業が進んでいくことができた。  学級の紹介からPCやビデオカメラの操作まで、極力生徒に役割を与えることによって、映像の前で構えるだけではなく積極的に交流に取り組む姿が見られた。  鹿本中からは郷土の民謡「八龍太鼓」をDTMでアレンジしたものを発表した。同時に、八龍太鼓を演奏している様子は写真によってPCの画面から紹介された。また、鹿本中学校がインターネット交流した福岡県の平野小学校の「うしくび音頭」をアレンジした作品も紹介した。このようにネットワーク通して交流しあった作品はデータを発展させ新しい交流が生まれることもわかった。  お互いに方言を紹介しあったり、給食の話になったり、すっかり打ち解けあった雰囲気の中で交流授業を終えることができた。
3、反省と今後の課題 ・もどる
(1)聴音の実践から
 楽譜に書かれた音をソルフェージュすることが苦手な生徒も、コンピュータを使えば自分の入力した楽譜を簡単に音として再現できるので、より積極的に取り組むことができた。また、ほとんどの生徒がノートに書き取るよりも正確に聞き取ることができた。このことはコンピュータが生徒の技術的に苦手な部分を補ってくれている証明であると考えられる。
 さらに、毎時間の生徒の記録が正確に保存できることは教師が生徒の成長を分析するうえで貴重な記録となった。
(2)鑑賞の実践から
 コンピュータでDTMを使うことにより、聞くこと中心の鑑賞授業から、楽譜を見ながら鑑賞することにより、声部に注目し旋律以外のパートも注意しながら鑑賞することができた。郷土の音楽を積極的に扱い、新しいメディアによる視覚的な学習活動を加えることによって、単なる鑑賞授業から、興味・関心を高め音楽全体の特徴や特質を感じとったり、理解を深めることの手段となることがわかった。作品アレンジにおいても、楽譜を書く障害がかなり減らすことができると思われた。同時に機能和声にこだわらない自由な創作に取り組むこともできた。
また、音楽を鑑賞しながらインターネットを使い、作曲者や作品の時代背景などをその場で調べることができた。
 このように、生徒は同じ音楽を鑑賞しながら、映像を見たり、楽譜を見たり、作者・作品について調べたり自分の好みにあった選択ができた。
(3)創作の実践から
 DTMを使用することにより、最初のイメージから五線譜にとらわれず、図形楽譜から作曲の導入もできるようになった。始めのうち、PCの操作に戸惑うことも多いが慣れてしまえばその便利さに気が付く。生徒は音を即興的に出しながら試行錯誤的に組み合わせることができ、その過程で自分のイメージにあった作品を練り上げ曲として仕上げることができた。イメージを具体的に音にすることによってさらにイメージが広がるというように、PCという道具を媒体として、自分たちの作品を客観的にみて作業することがより簡単になった。しかも、このプロセスを順次保存しておくことにより、教師は生徒がどのように曲を作り変更していったかということ常に把握できる。また、曲を完成していく過程で、自然に歌詞やメロディを覚えることができ、改めて音取りの練習に時間を使わなくてもすんだ。しかし、PCでは歌詞を歌うことができないので、実際に学級全体で歌唱しながら曲を細部まで検討する必要が生まれてくる。そのために、グループ活動を通して自分たちの声域にあった調性を選んだり伴奏のリズムなど変えながら合唱を楽しんだりする様子が多く見られた。こうした活動を通し、学級全体が学級歌の制作過程に参加することができ、全員が制作に参加した意識を持つことができた。
(4)ネットワークを使った演奏と発表から
 新しい授業の可能性を実感することができた。少子化による学級減、伴奏できる生徒がいない、などの状況でも相手さえ見つかれば仮想空間によって合唱・合奏体験ができることがわかった。こうした実践が多くの学校で取り入れられれば、複数の学校間でネットワークを利用した合唱・合奏練習に取り組むことも可能であると考えられる。
また、授業を工夫することによって、音楽だけでなく地域の特色を生かした地理的分野、歴史的分野での交流にも取り組めることがわかった。
(5)まとめ
 授業でマルチメディアを工夫し活用することによって、本来は習得に時間がかかる技術的な側面を補うことは十分にできたと考えられる。これらにともなう時間的ゆとりは新たに児童・生徒の創造性をより柔軟に発揮できる時間へと変わっていくと考えられる。しかし、PCを操作する技術のみに追われることなく、音楽を学習する本来の目標である「感性を育てる」という面がおろそかにならないよう、十分な配慮が必要である。
 ネットワーク化されたPCの基本的な操作技術さえあれば、音楽の教師が不在でも合唱や鑑賞授業など一部分を手助けすることができることがわかった。既存の合唱曲などもそれぞれの学校の状況に合わせDTMでデータ化(著作権の問題があるので取り扱いには充分配慮する必要がある)をしておけば、学級の時間などを利用し、自由に練習に取り組めることができる。今後、ネットワーク化されたPCを総合的な学習の時間として導入することにより、教科の枠にとらわれずに取り組める音楽活動のカリキュラムとして発展していける可能性を示していると考えられる。
 一方、文化祭などの発表を体験した生徒たちからは、DTMの伴奏での合唱と比較して「生伴奏のほうがずっと歌いやすかった。」という声が多くきかれた。DTMはあくまでも、その名の通り机上の音楽でしかない。したがって、私たち教師は再現芸術として、生の音楽の重要性を実際の表現活動を通して再認識させることが必要であると考えられる。
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