様々な伝説に彩られて私たちの耳に届けられているお釈迦さまの生涯。仏陀釈尊の一生をたどる中で、その誕生のころを正確に記録するものはない。在るのは断片的な逸話である。南に伝わる釈尊誕生の年と北に伝わるそれでは、少なくとも百年の開きがある。現代の我々にとって、釈尊の誕生にこれほどの差があると耳にすれば歴史的人物としてのゴータマ仏陀、すなわち釈尊という人物像の信憑性に疑問を持たれるかもしれない。しかし古代インドのウパニシャッドの哲人たちに限って俯瞰(ふかん)すれば、釈尊がもっとも生没年を特定することのできる唯一の人物といってもよい。
インド人の発展させた思想の源流は「永遠」「無限」を深く探求し続けるひとを生み出した。その人々にとってはわずか百年の差などは取るに足らないものであったに違いない。その風土の中で語り継がれた釈尊の一生でも、その晩年の行住はある経典によって比較的正確に記録されている。釈迦入滅にいたる過程を克明に語る大パリニッパーナ経・大般涅槃経である。その中で一つのクライマックスを迎えるのが入滅の場面である。この瞬間にいたる様々な人間模様を描くのが涅槃図となった。
仏教絵解きライブ in 大須演芸場では、来場のみなさまのお心に何が届けられ、どの様な疑問が生み出されるでしょうか。このような性質をもつ「ひと」を仏教では「機」と表現し探求の対象として来たのだ。どうぞインド哲学を育んだおおくの哲人たちからの問いかけが詰まった涅槃図絵解きに説法に、あなたもどかかで必ず抱えている自身の問題と合わせて挑んでみてはいかがでしょうか。
(表示絵図:西尾市 浄名寺蔵 釈迦涅槃図 絵解き座専用複製版掛幅)
寄稿:絵解き座 左右田智世